<その1からつづき>

ならばどうすればよいか、と言えば、この根本意志を解体することで
ある、という。この意志の解体への道が、救済への道である。

しかし、世界の原理をどうやって解体するのであろうか?

ひとつは、ショーペンハウアーによれば、「芸術」にカギがある。

人間は日ごろ、いろんなものを認識し、それを欲しがるが、
認識能力は、生きんとする意志に奉仕する能力であるがゆえに、
生に対する効用とか利害から逃れられない。

しかし「芸術」は違う。確かに同じ、生きんとする意志から
生じるものではあるが、これは認識ではなく、直観のみによって
得られるのであるから、効用とか利害にとらわれていない。

確かに、芸術は、悟性によって「ここがドの音だから、私の脳の
この部分を刺激しているからいいのである」とかって認識せず
とも、いい曲だということはそのまま伝わってくる。

ショーペンハウアーは、芸術の諸段階を、建築、彫刻、絵画、詩、
音楽というふうに段階づける。このあたりはちょっと恣意的だが、
音楽は形がないだけに、頭の中だけで直観させられるものだという
感じはする。建築〜詩〜音楽に向かうにしたがって、人間のもつ
五感に頼らず、頭の中で想起するものが重要になってくる。
そういう基準でつけられた段階と思うとなんとなく納得はできる。

しかし、芸術による解脱は、長く続きはしない。生きんとする意志は、
芸術によって忘れられていた生の悩みを、そのうちまた認識させる
からである。

これも理解できる。いろいろの悩みがあっても、映画とか
観にいくまではウンウン悩んでいるが、観ている最中は忘れて
いる。しかしそのうち終わると、また現実に引き戻された気がして
余計鬱になったりもする。

芸術、娯楽には、いっとき現実から自分を遊離させてくれる力が
ある。そのことを言ってるとしたら理解できる。

だが芸術は一時の安らぎにすぎないならば、どうやって解脱したら
いいんだろうか?

 
ショーペンハウアーによれば、人が自らの生きんとする意志を解体して
生の救済へいたる道は、「同情」にあるという。

「同情」とは何か?これは、理性的判断ではないにもかかわらず、
エゴイズムと対極をなす感情である。

生きんとする意志、行為の根本衝動は、エゴイズムである。
エゴイズムとは、人が必要のために他者を隷属させることではなくて、
他者の苦しみに対する自分の喜びのために、他者を隷属せしめること
である。

だからショーペンハウアーは、このようなエゴイズムから
自由であることを、彼の倫理学の課題とする。

エゴイズムは彼にとってかようなものであるが、しかし「同情」は
違う。同情は、他人の不幸や災いに自ら感じ入る心的現象である。

人間は、他人の不幸をみてから、いちいち「これはもし自分なら
かわいそうだな」とか、「もし自分が同じ不幸に遭ったら
この人に助けてもらおう」とか、「考えてから」同情の感情を
得ているわけではない。苦しみに遭っている人を見たら、すぐに
湧いてくる「到来的な」感情だ。

また、他人の苦しみをみて味わう残忍な愉悦感を忌避する感情で
あるから、自分ばかりか、他人の生きんとする意志をも承認する
感情なのだ。
私が、私の生きようとする意志を超えて、他人を慮ることが
同情である。

プラトンの言った「正義」もキリストの言った「隣人愛」も、
結局この「同情」がベースになっているのである、と彼は考える。

そして、人は自らを洞察し、その結果、自らの生きんとする意志を
否定するよう指令することもできる存在である。
生きんとする意志に潜むエゴイズムを否定しようとするのだから、
これは生きんとする意志に奉仕する「認識」より、もう少し高い
位置にある「認識」だ。

この自己認識が、人を意志の寂滅に導くという。
そのとき、人にとって「死」は歓迎すべき救済になるのである。

苦悩からの救済は、私と他人との差異のない、個と全体の融合する
「涅槃」に没入することになる。

つまりは禁欲主義ということだが、それはストア派よりも
エピクロス派のそれに近そうだ。

また彼は、イエスや仏陀のような禁欲の極地には、一般人は
たどり着けないが、キリスト教でいう「恩寵」に拠って可能だと
する。

これが、ショーペンハウアーのペシミズムと、その中で生きる
人間像である。

 
まぁ、最初のほうは割とうなずけもしたけど、最後は宗教に
なってしまいました…

最初のほうにモチーフは見受けられるが、最終的には
ニーチェにとってはまったく評価に値しない哲学になってますね。

次はキルケゴールです。

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