<その1からつづき>

ロック(1632〜1704)はイギリス啓蒙主義(啓蒙思想。18世紀
フランスを中心としてヨーロッパ全域に広がった革新的思想。
キリスト教会などの伝統的権威から解放された理性の使用を公衆に
促し、人類の普遍的進歩を図った)の代表者であり、近代経験論の
創始者であるという。

デカルトの哲学を引き継いで、人間の知識の起源、確実性および
妥当範囲を探求した。
人間の認識そのものを探る、「認識論」は彼からはじまったのである。

デカルトやその後継者たちは、人間には生まれつきいくつかの観念
(生得観念)を持っていると考えていた。神の観念とか、論理的な
思考などは、あらかじめ人間が生まれ持ったものだというのである。

ロックはこれに危機感をおぼえた。「それは生まれつき与えられて
いるんだ」という言い方は、宗教や政治的指導者にとって、民衆を
盲従させる都合のよい考え方であったからだ。

そこで彼は主著「人間知性論」の中で、まずその生得観念を否定する。

生得観念論の根拠は「誰もがその観念を明晰判明にもっており
その真理性を疑わない」ということだ。だが、子供は矛盾律
(AであってAでないということはない)や排中律(ある「もの」は
必ずAであるか、Aでないかである)という論理法則などを知らないし、
今我々がもっている道徳観念だって、部族、地域が違えばまるで違う。
人は感覚によって得る経験によってそれらを手に入れるのであって、
はじめから持っているのではない。

(ちなみに基本的な論理法則「思考の原理」には、このほかに同一律
(AはAである)と充足理由律(すべての事物の存在あるいは真理が
成立するためには十分な理由(原因)がなければならぬというもの。
ライプニッツによって唱えられた)を加えて4つがあるそうです。
ただこれは古典論理学とか…?)

人間が何も持たずに生まれたというのは、ちょっと我々の感覚からすると
無理がある。とはいえ、考え方としては非常に分かりやすいものだ。

ロックによれば、人間は「白紙(タブラ・ラーサ)」として生まれた。

そして、人間は知覚によって経験を得る。この経験が、白紙に観念を
刻み付けるのである。

その経験は二種類ある。ひとつは、外的経験である「感覚」、
もうひとつは内的経験である「反省」ないしは「内感」である。

これは「神から与えられた」よりも、現代人の感覚にもフィットする
考え方。外から得たもの(外的事物)は記憶するし、内的な感情
(思考、意思、感情)も記憶される。これらが蓄積することによって、
人は成長すると。

また、これら二種類の経験によって心に与えられる観念には「単純観念」と
「複合観念」というのがあって、単純観念は、目の前にある事物
そのものの性質によるとされた。つまり、白紙には観念が刻まれると
言ってはいたが、とりあえずは客観的事物の存在は、ロックは認めて
いたことになる。

で、その事物から得られるのが単純観念であるわけだけど、このあたりは
デカルトにならって、個体性、延長、形態、位置などが「第一性質」
としてその事物の性質だとして、色・香・味・音などは、これは事物を
人間が解釈しているにすぎないとして、「第二性質」とされた。

つまり、ロックの時点では完全な経験論ではなかった。この後、
バークリー、ヒュームでこれは徹底されることになる。

複合観念は、これは思考(内的経験である「反省」)によって
単純観念が結合することによってできたもの。これには実体、
様態、関係などがあるが、これは観念の集合「個別実体」で
あって、実際に存在する「実体一般」ではないとした。

つまりは、我々の感覚に与えられている物体は複合観念から
成っているのであって、その事物そのものを指しているわけでは
ないことになる。

ここでも、やはり完全な経験論ではない。事物と、人のうちに描かれる
事物との差異を示しているわけだから。とはいえ、この感覚は
現代人としても分かる気はする。

 
こうして、我々が見ているのは「観念」だけということになるので、
認識というのは、その観念の間の一致・不一致の問題にすぎなく
なる(とはいえ、その観念は事物から与えられているわけだが)。
つまり「論証」とは、事物と観念が一致するかどうかということでは
なくて、観念同士の比較にすぎない。論証においては、事物は
取り残されるわけだ。

また、ロックは実は、神を認めている。また、そのことは論証的に
知りうるとした。我々は無からは何も生じないことを知っている
わけであるから、我々が今こうして存在する以上、その原因として
永遠なる存在者が必然的に存在しなければならない、という。

 
人間が神の権威を利用することは恐れても、神への信心はあった
ということだろうか。ともあれロックの論はこういうものだった。
精神もあれば事物もあって、神も存在する。

つぎ、さらに唯心論よりになったバークリーにいきます。

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